映画、「小さいお家」を観て

小さいおうち

山形の片田舎から、東京の平井家に女中として働くようになったタキが、人生の終わりを迎える直前、おばあちゃんと慕う親戚筋の大学生に励まされながら、自身の平凡な自叙伝を書く。平凡といっても、その中には、平井家の子供の病気や、妻、主人の会社の若者に惹かれて事件になりそうになるなどという出来事も出てくる。

人生を終えようとする今、タキのもとには、1通の手紙がある。それは、平井一家を守ろうとしたタキの行為から、それまで捨てきれないで残されたものだ。しかし、それは、世話になった平井家の妻に対する小さな背信である。後悔として、ずっと抱えてきた苦い思い出であるのだ。

人間を描くときに、ただひとりの名もない人物をクローズアップし、その人間が歩むさざ波のようなことを、淡々と語っていく方法がある。さざ波といえども、よく見るとやや大きな波であったり、小さな波であったりする。山田洋次監督の描くシーンには、誰もがその微妙な波を感知し共感できるがゆえに、深く考えさせる場面づくりがある。

タキの物語とともに、あの手紙の存在があることで、人間としての生き方とは何か、一人一人に訴えかける映画になっている。

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